生命は
  自分自身だけでは完結できないように
  つくられているらしい
  花も
  めしべとおしべが揃っているだけでは
  不充分で
  虫や風が訪れて
  めしべとおしべを仲立ちする
  生命は
  その中に欠如を抱き
  それを他者から満たしてもらうのだ

  世界は多分
  他者の総和
  しかし
  互いに
  欠如を満たすなどとは
  知りもせず
  知らされもせず
  ばらまかれている者同士
  無関心でいられる間柄
  ときに
  うとましく思うことさえも許されている間柄
  そのように
  世界がゆるやかに構成されているのは
  なぜ?

  花が咲いている
  すぐ近くまで
  虻の姿をした他者が
  光をまとって飛んできている

  私も あるとき
  誰かのための虻だったろう

  あなたも あるとき
  私のための風だったかもしれない


中学3年生の国語教科書に掲載されている、吉野弘の詩です。
詩人・吉野弘さんは大正15年生まれ。
詩の世界に入ったのは終戦直後の混乱の中だった。
当時の軍国少年たちの考え通り、お国のために戦って死ぬのが当たり前の考え方だった。
しかし、彼が陸軍に入隊する五日前に戦争が終わった。

今まで当たり前だと思っていた考えが根底から覆された。
生きるとは何か?命とは?
終戦の二年後、二一歳の吉野弘は詩人になることを決めた。
サラリーマンとして働きながら・・・・


  正しいことを言うときは
  少しひかえめにするほうがいい
  正しいことを言うときは
  相手を傷つけやすいものだと
  気付いているほうがいい

祝婚歌(抜粋)




0524
青々と
緑に染まる
夏の風
【まどか】